2020年4月1日から適用開始された「新リース会計基準」は、企業の財務諸表に大きな変革をもたらします。本記事では、この複雑な新基準について、従来のリース会計基準との違い、導入の背景、IFRS16との関係といった基本から、いつからどの企業に適用されるのかを徹底解説します。特に、賃借人側における使用権資産とリース負債の計上など、会計処理の具体的な変更点を詳細に解説。さらに、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書といった財務諸表への影響はもちろん、業務フローやプロシップなどの会計システムへの影響、そして具体的な対応策までを網羅的にご紹介します。この解説を読めば、新リース会計基準の全体像を理解し、貴社が取るべき具体的な対応策を明確にすることができます。早期かつ適切な準備を進め、財務状況の透明性向上とリスク管理強化に繋げましょう。
新リース会計基準とは何か 基本を理解する
「新リース会計基準」とは、リース取引の会計処理に関する国際的なルール変更、およびそれに伴う日本基準の改正(または改正の検討)を指します。従来のリース会計では、リース契約の種類によって会計処理が大きく異なり、特にオペレーティングリースは企業の貸借対照表に負債として計上されない「オフバランス」取引として扱われることが一般的でした。しかし、新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約を企業の貸借対照表に「資産」と「負債」として計上する「オンバランス」処理が求められるようになります。これにより、企業の財務状況がより透明化され、投資家や債権者にとって実態が把握しやすくなることが期待されています。
従来のリース会計基準との違い
従来のリース会計基準(日本基準)では、リース取引は大きく「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」の2種類に分類され、それぞれ異なる会計処理が適用されていました。これに対し、新リース会計基準では、賃借人(リース利用者)側においては、原則としてすべてのリース取引をオンバランスで処理する「単一モデル」が採用されます。
従来の基準と新基準の主な違いは以下の通りです。
| 項目 | 従来のリース会計基準(日本基準) | 新リース会計基準(IFRS第16号等) |
|---|---|---|
| 分類 | ファイナンスリースとオペレーティングリースに分類 | 原則として分類せず、単一モデルを適用 |
| 賃借人の会計処理(原則) |
|
|
| 賃借人の財務諸表への影響 |
|
|
この変更により、これまでオフバランスで処理されていたオペレーティングリース契約も、賃借人の貸借対照表に「使用権資産」と「リース負債」として計上されることになります。これは、企業がリース物件を利用する権利(使用権)を資産とみなし、その対価として将来支払う義務を負債とみなすという考え方に基づいています。
なぜ新リース会計基準が導入されるのか
新リース会計基準が導入される背景には、主に以下の3つの理由があります。
一つ目は、企業の財務実態をより正確に反映し、財務諸表の透明性を向上させるためです。従来のオペレーティングリースは、企業が実質的に資産を長期的に利用しているにもかかわらず、その契約に基づく負債が貸借対照表に計上されないため、企業の真の負債状況や財務レバレッジが外部からは見えにくいという問題がありました。これにより、投資家や債権者が企業の財務リスクを適切に評価することが困難になるケースがあったのです。
二つ目は、国際的な会計基準の統一と比較可能性の向上です。国際会計基準審議会(IASB)が国際財務報告基準(IFRS)として新リース会計基準(IFRS第16号)を公表したことで、グローバルに事業を展開する企業が異なる会計基準を適用することによる財務情報の非整合性を解消し、世界中の企業の財務諸表をより比較しやすくする狙いがあります。
三つ目は、リース契約の実態に合わせた会計処理の実現です。多くのリース契約は、実質的には企業が資産を調達し、その代金を分割で支払っているのと同等の経済的実態を持つと認識されています。新基準は、このようなリース契約の経済的実態を会計処理に反映させることで、より実質的な情報を提供することを目指しています。
IFRS16と日本基準 新リース会計基準の関係
「新リース会計基準」を語る上で欠かせないのが、国際財務報告基準(IFRS)における「IFRS第16号『リース』」です。IFRS第16号は、2019年1月1日以降開始する事業年度から適用が義務付けられている国際的な新リース会計基準であり、原則としてすべてのリース契約をオンバランス化する「単一モデル」を導入しました。
一方、日本基準においては、企業会計基準委員会(ASBJ)がIFRS第16号の考え方を取り入れた新たなリース会計基準の検討を進めています。現時点(2024年5月時点)では、IFRS第16号に完全に準拠した日本基準の改正は公表されていませんが、国際的な動向に合わせて日本基準も同様のオンバランス処理が導入される方向で検討が進められています。将来的に日本基準が改正された場合、日本国内の企業もIFRS第16号と同様に、賃借人側ではほとんどのリース契約について使用権資産とリース負債を計上することが求められることになります。
このため、「新リース会計基準」という言葉は、IFRS第16号そのものを指す場合と、IFRS第16号の考え方を取り入れた日本基準の将来的な改正を指す場合の両方で用いられることがあります。特に、国際的な事業展開を行う企業やIFRSを任意適用している企業にとっては、IFRS第16号への対応が既に必須となっています。
新リース会計基準の適用時期と対象企業
いつから適用されるのか
新リース会計基準の適用時期は、国際会計基準(IFRS16)と日本基準とで異なります。企業がどちらの会計基準を適用しているかによって、対応すべき時期が変わってきます。
IFRS16の適用時期
国際会計基準審議会(IASB)が公表したIFRS16「リース」は、2019年1月1日以降に開始する事業年度から強制適用されています。したがって、連結財務諸表を作成する多くの日本の上場企業は、すでにIFRS16を適用済み、または適用に向けて対応を完了しています。
日本基準の適用時期
日本基準における新リース会計基準は、企業会計基準委員会(ASBJ)が2023年5月に公表した企業会計基準第13号「リースに関する会計基準」および企業会計基準適用指針第16号「リースに関する会計基準の適用指針」によって定められています。
この新基準は、原則として2026年4月1日以後開始する事業年度の期首から強制適用されます。ただし、これに先立って早期適用も認められています。
適用時期をまとめると以下のようになります。
| 会計基準 | 適用対象 | 強制適用開始時期 | 備考 |
|---|---|---|---|
| IFRS16 | IFRS適用企業(主に連結財務諸表作成企業) | 2019年1月1日以後開始する事業年度 | すでに適用済み、または対応完了 |
| 日本基準 | 日本基準適用企業(連結・個別財務諸表) | 2026年4月1日以後開始する事業年度 | 早期適用は2024年4月1日以後開始する事業年度から可能 |
早期適用を選択する場合、企業は2024年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用することができます。早期適用を選択するかどうかは、企業の準備状況や、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理の整合性などを考慮して判断されることになります。
なお、中小企業における会計処理については、現在のところ、中小企業の会計に関する指針や中小企業会計基準において、リース取引の特例が設けられているため、直ちに新基準の適用が求められるわけではありません。しかし、将来的に適用範囲が拡大する可能性も考慮しておく必要があります。
適用対象となる企業とリース契約
新リース会計基準は、原則としてすべての企業に適用されますが、特に連結財務諸表を作成する企業や、個別財務諸表を作成する大企業に大きな影響があります。また、これまでオフバランス処理されてきた特定のリース契約も、新たに会計処理の対象となります。
適用対象となる企業
新リース会計基準(日本基準)は、連結財務諸表を作成する企業はもちろんのこと、個別財務諸表を作成する企業にも適用されます。これにより、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリース取引が、貸借対照表に計上されることになります。
ただし、中小企業については、現行の会計処理が継続される特例が設けられており、当面は新基準の適用は義務付けられていません。これは、中小企業の会計処理の負担軽減を目的としたものです。しかし、将来的な動向には注意が必要です。
適用対象となるリース契約
新リース会計基準では、従来のファイナンスリースとオペレーティングリースの区分が撤廃され、原則としてすべてのリース契約がオンバランス処理の対象となります。つまり、賃借人はリース契約に基づいて使用する資産(使用権資産)と、それに対する支払い義務(リース負債)を貸借対照表に計上することになります。
これは、従来のオペレーティングリース取引が、財務諸表上は負債として認識されなかったため、企業の実態を正確に反映していないという問題意識から導入された変更点です。
適用免除されるリース契約
全てのリース契約がオンバランスされるわけではなく、以下の条件を満たすリース契約については、簡便な会計処理(オンバランス不要)が認められています。
| 区分 | 適用免除の条件 | 備考 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース開始日におけるリース期間が12ヶ月以内のリース契約 | リース期間の判断には、リース更新オプションの行使が合理的に確実である期間を含めて検討する必要があります。 |
| 少額リース | 基礎となる資産の価値が少額であるリース契約 | 具体的な金額基準は、国際会計基準(IFRS16)では5,000米ドル程度が目安とされていますが、日本基準では重要性の原則に基づき、企業が個別に判断することになります。個々の企業の実情に応じて、重要性を判断するための金額基準を設定する必要があります。 |
これらの免除規定は、実務上の負担軽減を目的としていますが、適用にあたっては、リース期間の適切な見積もりや、少額の定義について企業内で明確な方針を定める必要があります。
特にリース期間の算定においては、解約不能期間だけでなく、賃借人がリースを継続する合理的な確実性がある期間(リース更新オプションの行使が確実視される期間など)を含めて判断する必要があります。
新リース会計基準による会計処理の主な変更点
新リース会計基準の導入により、企業の会計処理は大きく変わります。特に、賃借人(リースを利用する側)において、ほとんどのリース契約が貸借対照表に計上される「オンバランス化」が最大の変更点となります。ここでは、賃借人側と賃貸人側それぞれの主な変更点、そしてリース取引を識別するための重要な概念について詳しく解説します。
賃借人側の変更点 使用権資産とリース負債の計上
従来のリース会計基準では、オペレーティング・リース取引は貸借対照表に計上されない「オフバランス取引」として扱われることが多くありました。しかし、新リース会計基準では、原則としてすべてのリース契約について、賃借人の貸借対照表に「使用権資産」と「リース負債」を計上することが求められます。これを「オンバランス化」と呼びます。
使用権資産の計上
賃借人は、リース物件を使用する権利を資産として認識し、「使用権資産」として貸借対照表に計上します。この使用権資産の当初測定額は、以下の合計額となります。
- リース負債の当初測定額
- リース開始日までに賃借人が支払ったリース料(受領したリース・インセンティブを控除)
- 賃借人が負担する当初直接費用
- リース契約終了時に原状回復義務がある場合の、その見積費用(将来発生する費用の現在価値)
計上された使用権資産は、リース期間にわたって減価償却されます。減価償却費は、損益計算書において費用として認識されます。
リース負債の計上
賃借人は、リース料を支払う義務を負債として認識し、「リース負債」として貸借対照表に計上します。リース負債の当初測定額は、未払いリース料の現在価値となります。現在価値を計算する際には、リースに内在する利率(それが算定できない場合は、賃借人の追加借入利率)を用いて割引計算を行います。
リース負債は、毎期のリース料支払いに応じて減少しますが、同時に割引計算によって生じる「利息費用」が損益計算書に計上されます。これにより、リース期間を通じて、損益計算書には「減価償却費」と「利息費用」が計上されることになります。
短期リースと少額リース
新リース会計基準では、すべてのリース契約がオンバランス化の対象となるのが原則ですが、「短期リース」と「少額リース」については、例外的にオンバランス化を免除する選択肢が認められています。これらのリースは、従来と同様にオフバランス取引として処理し、リース料を発生時に費用として認識することが可能です。
| 項目 | 免除要件 | 会計処理の選択肢 |
|---|---|---|
| 短期リース | リース開始日において、リース期間が12ヶ月以内であり、かつ、購入オプションを含まないリース | リース料を定額法または合理的な基準に基づき、リース期間にわたって費用として認識(オンバランス化しない) |
| 少額リース | リース対象資産の新品時の価値が少額であると企業が判断するリース(例:個々のPCやオフィス家具など、一般的に5,000米ドル程度が目安とされるが、金額基準は企業が判断) | リース料を定額法または合理的な基準に基づき、リース期間にわたって費用として認識(オンバランス化しない) |
これらの免除規定を適用するかどうかは、企業が会計方針として選択し、適用する場合には注記情報として開示する必要があります。
賃貸人側の変更点
賃貸人(リースを提供する側)の会計処理については、新リース会計基準による大きな変更は原則としてありません。引き続き、リース契約を「ファイナンス・リース」または「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれに応じた会計処理を行います。
| リースの種類 | 分類基準(主な例) | 会計処理 |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | リース期間終了後に所有権が賃借人に移転する、購入オプション付き、リース期間が経済的耐用年数の大部分を占める、リース料総額が資産の公正価値のほとんどを占める、など、資産の実質的な所有に伴うリスクと経済的便益が賃借人に移転していると判断される場合 | 売買取引に準じた会計処理。 リース資産を除却し、リース債権を計上。リース期間にわたり受取利息を認識。 |
| オペレーティング・リース | ファイナンス・リースに該当しない場合。 資産の実質的な所有に伴うリスクと経済的便益が賃貸人に留保されていると判断される場合 | 賃貸借取引に準じた会計処理。 リース資産を自社の固定資産として計上し、減価償却を行う。リース期間にわたり受取リース料を収益として認識。 |
賃貸人側は、賃借人側の会計処理の変更に伴い、リース契約に関する情報提供の要請が増えるなど、実務上の影響は考慮する必要がありますが、自社の会計処理原則に直接的な変更は少ないと理解されています。
識別されたリースと識別されないリース
新リース会計基準を適用する上で、まず重要なのは、対象となる契約が「リース」であるか否かを識別することです。基準では、リースを「資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と引き換えに顧客に提供する契約」と定義しています。
具体的には、以下の2つの要件をすべて満たす場合に、契約が「識別されたリース」としてリース会計基準の適用対象となります。
特定の資産が識別されているか
契約で特定された資産が明確に存在するかどうかです。契約で明示的に特定されている場合(例:特定のシリアル番号の機械)だけでなく、黙示的に特定されている場合(例:特定の場所に設置される機械)も含まれます。ただし、供給者が実質的な代替資産を使用する権利を有している場合は、特定の資産が識別されているとはみなされません。例えば、供給者がいつでも別の資産と交換できる権利を持っている場合などが該当します。
顧客が資産の使用を支配する権利を有しているか
顧客(賃借人)が、その識別された資産の「使用方法」と「使用から生じる経済的便益のほとんど」を指示する権利を有しているかどうかが判断のポイントとなります。
- 使用方法の指示権: 顧客が、資産をどのように、どのような目的で使用するかを決定する権利を持っているか。供給者が顧客の使用方法を制限する権利を持っている場合でも、顧客がその制限の範囲内で使用方法を決定できる場合は、顧客が支配しているとみなされることがあります。
- 経済的便益の享受権: 顧客が、資産の使用から生じるアウトプット(製品、サービスなど)のほとんどすべてを受け取る権利を持っているか。
これらの判断は、複雑な契約において特に重要となります。例えば、サービス契約の中にリースの要素が含まれている場合(「埋め込みリース」と呼ばれる)など、契約全体を詳細に分析し、リース部分を識別して適切に会計処理を行う必要があります。
新リース会計基準が実務に与える影響
新リース会計基準の導入は、企業の会計処理だけでなく、財務戦略、業務フロー、そして使用するシステムに至るまで、多岐にわたる実務に大きな影響を及ぼします。特に、これまでオフバランス処理が可能であったオペレーティングリース契約も、原則としてオンバランス処理が求められるようになる点が、最も大きな変更点であり、企業はこれに対応するための準備が不可欠です。
財務諸表への影響
新リース会計基準は、企業の財務諸表、特に貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書に明確な変化をもたらします。これらの変化は、企業の財務状況や経営成績の評価に直接影響を与えるため、金融機関や投資家からの見方も変わる可能性があります。
貸借対照表への影響
新リース会計基準の適用により、貸借対照表は大きく変化します。従来のオペレーティングリース契約では資産・負債として計上されなかったものが、原則として計上されるためです。
具体的には、賃借人はリース契約に基づく「使用権資産」を資産として計上し、その対価として「リース負債」を負債として計上します。これにより、企業の資産および負債の総額が増加し、財務指標に影響を与えます。
| 項目 | 従来のオペレーティングリース(賃借人側) | 新リース会計基準(賃借人側) |
|---|---|---|
| 資産計上 | 原則として計上なし(オフバランス) | 使用権資産として計上 |
| 負債計上 | 原則として計上なし(オフバランス) | リース負債として計上 |
| 総資産 | 変化なし | 増加 |
| 総負債 | 変化なし | 増加 |
| 自己資本比率 | 変化なし | 低下する可能性 |
| D/Eレシオ(負債資本倍率) | 変化なし | 悪化する可能性 |
この変化は、企業の借入金依存度が高まったと見なされる可能性があり、金融機関からの評価や資金調達コストに影響を与えることも考えられます。また、総資産が増加することで、総資産回転率などの経営効率指標も変化します。
損益計算書への影響
損益計算書においても、新リース会計基準は費用計上の方法に大きな変更をもたらします。従来のオペレーティングリースでは、リース料が「賃借料」として一律に費用計上されていました。
新基準では、リース料の支払いが「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る支払利息」の二つの費用に分解されます。このうち、減価償却費は営業費用として、支払利息は原則として営業外費用として計上されます。
| 項目 | 従来のオペレーティングリース(賃借人側) | 新リース会計基準(賃借人側) |
|---|---|---|
| 費用項目 | 賃借料(営業費用) | 減価償却費(営業費用) 支払利息(営業外費用) |
| 費用の認識パターン | 定額 | リース期間初期に費用が大きく計上され、徐々に減少する傾向(利息法の場合) |
| 営業利益 | 変化なし | 支払利息が営業外費用となるため、相対的に改善する可能性 |
| 税引前当期純利益 | 変化なし | リース期間全体での費用総額は変わらないが、期間配分が変化 |
| EBITDA | 変化なし | 減価償却費が加算されるため、増加する可能性 |
特に、リース期間の初期においては、利息法による支払利息の計上が大きくなるため、従来の定額の賃借料よりも費用が大きくなる傾向があります。これにより、リース契約が多い企業では、リース期間初期の利益が圧縮される可能性があります。一方で、EBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:利払い前・税引き前・減価償却前利益)は、減価償却費が費用から除外されるため、新基準適用後に増加する傾向が見られます。
キャッシュフロー計算書への影響
キャッシュフロー計算書も、新リース会計基準によってその表示が変更されます。従来のオペレーティングリースでは、リース料の支払いは「営業活動によるキャッシュフロー」として計上されていました。
新基準では、リース料の支払いのうち、リース負債の元本返済部分は「財務活動によるキャッシュフロー」として、支払利息部分は「営業活動によるキャッシュフロー」または「財務活動によるキャッシュフロー」のいずれかとして計上されます(選択適用が可能です)。
| 項目 | 従来のオペレーティングリース(賃借人側) | 新リース会計基準(賃借人側) |
|---|---|---|
| リース料支払いの分類 | 営業活動によるキャッシュフロー | 元本返済部分:財務活動によるキャッシュフロー 利息部分:営業活動または財務活動によるキャッシュフロー(選択可能) |
| 営業活動によるキャッシュフロー | 変化なし | 改善する可能性(元本部分が財務活動に移動するため) |
| 財務活動によるキャッシュフロー | 変化なし | 悪化する可能性(元本部分が財務活動に計上されるため) |
この変更により、営業活動によるキャッシュフローが改善する一方で、財務活動によるキャッシュフローが悪化するという傾向が見られます。これは、企業の営業活動による資金創出能力をより正確に反映する一方で、負債の返済状況も明確に示されることになります。
業務フローへの影響
新リース会計基準の導入は、経理部門だけでなく、リース契約に関わる全ての部門の業務フローに大きな影響を与えます。従来のリース契約管理に加えて、新たな会計処理に対応するための業務が追加されるためです。
主な影響としては、まずリース契約に関する詳細な情報の収集と管理が挙げられます。契約書からリース期間、リース料、残存価額、割引率などの情報を正確に抽出し、一元的に管理する体制が求められます。これには、法務部門や調達部門との連携が不可欠となります。
次に、リース契約ごとの識別と評価が必要です。新基準では、リース契約であるか否かの判断や、短期リース・少額リース免除規定の適用可否を個別に判断する必要があります。これにより、契約審査や登録のプロセスが複雑化します。
さらに、使用権資産とリース負債の算定、減価償却費と支払利息の計算といった新たな会計処理が発生します。これらの計算は複雑であり、手作業での処理はミスや非効率を招く可能性があるため、専門知識を持つ人材の確保や、後述するシステム導入が重要になります。
決算業務においても、リース関連の勘定科目の増加や、開示情報の拡充が求められるため、決算プロセスの負荷が増大します。期末には、使用権資産の減損テストの検討なども必要となる場合があります。
これらの業務は、経理部門だけでなく、リース資産を使用する各事業部門、契約を締結する調達部門、そして契約内容を管理する法務部門など、複数の部門にまたがる連携が不可欠となります。部門間の情報共有や責任範囲の明確化が、円滑な運用には欠かせません。
システムへの影響 プロシップなど会計システムの改修
新リース会計基準への対応は、企業の会計システムおよび関連する情報システムに大きな影響を与えます。手作業での対応は現実的ではないため、システムの改修や新規導入が必須となるケースがほとんどです。
まず、リース契約情報を一元的に管理する機能が求められます。これには、契約日、リース開始日、リース終了日、リース料、残存価額、割引率、支払条件などの詳細な情報を登録し、更新できるデータベースが必要です。従来の固定資産管理システムや契約管理システムでは、これらの情報を網羅的に管理できない場合があります。
次に、使用権資産とリース負債の自動計算機能が不可欠です。登録されたリース契約情報に基づき、適切な割引率を用いてリース負債の現在価値を算定し、それに対応する使用権資産を計上する機能が求められます。さらに、リース期間にわたる減価償却費と支払利息を自動で計算し、会計システムに仕訳を連携する機能も必要となります。
多くの企業では、このような複雑なリース会計処理に対応するため、「プロシップ」のような専門のリース会計システムの導入や、既存の会計システムへのアドオン開発、またはERP(統合基幹業務システム)のモジュール拡張を検討することになります。これらのシステムは、日本基準だけでなく、IFRS(国際財務報告基準)など複数の会計基準に対応できる柔軟性も求められます。
システムの改修や導入には、多大な時間とコストがかかります。要件定義からベンダー選定、開発、テスト、そして運用開始に至るまで、数ヶ月から年単位のプロジェクトとなることも珍しくありません。また、システム導入後も、データ入力の正確性や、システムと業務フローの整合性を保つための継続的なメンテナンスが必要となります。
既存の固定資産管理システムや債務管理システムとのデータ連携も重要な検討事項です。データの二重入力や不整合を避けるため、各システム間のシームレスな連携が求められます。システム改修は、単に会計処理の変更だけでなく、情報システム部門と経理部門、さらにはリース契約に関わる他部門との緊密な協力体制なしには実現できません。
新リース会計基準への具体的な対応策
新リース会計基準への移行は、単なる会計処理の変更にとどまらず、企業の業務フローやシステム、さらには組織体制にまで影響を及ぼします。円滑な移行と継続的な遵守のためには、計画的かつ多角的な対応が不可欠です。ここでは、具体的な対応策を4つの柱に分けて解説します。
リース契約データの収集と分析
新リース会計基準の適用にあたり、まず最初に着手すべきは、企業が締結している全てのリース契約に関する網羅的なデータの収集と分析です。これまでのオペレーティングリース契約も対象となるため、漏れなく情報を集める必要があります。
収集すべき主要なデータ項目と、それらをどのように分析・活用するかを以下の表にまとめました。
| データ項目 | 収集内容の具体例 | 分析・活用ポイント |
|---|---|---|
| 契約基本情報 | 契約開始日、終了日、リース物件の識別情報、契約当事者(賃貸人・賃借人) | リース期間の特定、対象契約の洗い出し |
| リース料関連情報 | 定期リース料、変動リース料、インセンティブ、残価保証額、購入オプション行使価格 | リース負債の算定、使用権資産の測定 |
| オプション情報 | 購入オプション、解約オプション、延長オプションの有無とその条件 | リース期間の決定(オプション行使の合理的な確実性評価) |
| 割引率 | 契約に明示された割引率、または賃借人の追加借入増加率 | リース負債の現在価値計算に不可欠 |
| 契約条件 | リース物件の利用権と支配の有無、サービス部分の分離可能性 | 「識別されたリース」か否かの判断、リース構成要素と非リース構成要素の分離 |
| 免除規定適用可否 | リース期間が12ヶ月以内の短期リース、または少額資産リース(約60万円以下)の条件 | 短期リース・少額リース免除規定の適用可否を検討し、実務負荷軽減を図る |
これらのデータを正確に収集し、分析することで、各リース契約が新基準のどの要件に該当するかを判断し、適切な会計処理を行うための基礎を築きます。特に、契約書が複数言語であったり、保管場所が分散していたりする場合は、データ収集自体が大きな課題となるため、早期に着手することが重要です。
会計処理方針の検討と決定
収集・分析したデータに基づき、自社における新リース会計基準の具体的な会計処理方針を検討し、決定する必要があります。特に、新基準には企業が選択できる会計処理のオプションがいくつか存在するため、自社の状況に合わせた最適な方針を定めることが重要です。
検討すべき主な項目は以下の通りです。
- 短期リースおよび少額リースの免除規定の適用方針:すべての対象リースに適用するか、一部のみに適用するか、あるいは適用しないか。この選択は、実務負荷と財務諸表への影響を考慮して慎重に行う必要があります。
- 割引率の決定方法:リース契約に明示された利率がない場合、賃借人の追加借入増加率をどのように算定するか。グループ会社内で統一的な方針を定めるか、個別契約ごとに判断するか。
- リース期間の決定方法:購入オプションや解約オプションの行使が「合理的に確実」であるかどうかの判断基準を明確にする必要があります。これは、リース期間の長期化・短期化に直結し、使用権資産とリース負債の金額に大きな影響を与えます。
- リース構成要素と非リース構成要素の分離:リース契約に含まれるサービス部分(メンテナンス費用など)をリース負債の計算から除外するか否か。実務的な簡便法を適用するかどうかも検討します。
- 契約変更時の会計処理:リース期間の変更やリース料の変更、対象資産の変更など、契約変更が発生した場合の会計処理ルールを定めます。
これらの会計処理方針は、一度決定すると継続的に適用されるため、関連部署(経理、法務、事業部門など)と密接に連携し、必要に応じて会計士などの専門家のアドバイスを受けながら慎重に検討を進めることが求められます。
リース管理システムの導入検討
新リース会計基準への対応は、大量のリース契約データの管理と複雑な会計計算を伴います。これらの業務を手作業で行うことは現実的ではなく、ヒューマンエラーのリスクも高いため、専門のリース管理システムの導入を検討することが非常に有効です。
システムの導入により、以下のようなメリットが期待できます。
- 効率的なデータ管理:多数のリース契約情報を一元的に管理し、検索や更新を容易にします。
- 正確な会計処理:使用権資産とリース負債の計上、減価償却費やリース負債利息の計算、償却スケジュール作成などを自動化し、計算ミスを防ぎます。
- レポーティング機能の強化:新基準に準拠した財務諸表開示に必要な情報を自動で生成し、監査対応をスムーズにします。
- 契約変更への柔軟な対応:リース期間の変更やリース料の見直しなどが発生した際に、迅速かつ正確に会計処理を修正できます。
市場には「プロシップ」や「SAP」のような大手ベンダーが提供するリース会計ソリューションや、特化型クラウドサービスなど、様々なリース管理システムが存在します。自社のリース契約数、既存の会計システムとの連携、予算などを考慮し、最適なシステムを選定することが重要です。
組織体制の整備と従業員への教育
新リース会計基準への対応は、経理部門だけでなく、リース契約の締結に関わる調達部門、法務部門、事業部門など、組織横断的な協力体制が不可欠です。各部門が新基準の内容を理解し、それぞれの役割を果たすための組織体制の整備と従業員への教育が重要となります。
- 担当部署の明確化:新リース会計基準に関する実務を主導する部署(通常は経理部門)を明確にし、責任者を配置します。
- 関連部署との連携体制の構築:リース契約締結時に必要な情報(リース期間、割引率、オプション条件など)を経理部門へ正確かつタイムリーに連携するためのフローを確立します。例えば、契約締結前に経理部門のレビューを必須とするなどの仕組みが考えられます。
- 従業員への継続的な教育:
- 新リース会計基準の基本的な考え方と自社への影響。
- リース契約締結時に注意すべきポイント(契約書の内容確認、免除規定の適用可否判断)。
- 導入されたリース管理システムの操作方法。
- 契約変更や終了時の手続き。
などを対象とした研修を定期的に実施し、従業員の理解度を高めます。特に、リース契約の現場担当者に対する教育は、データ収集の精度向上に直結するため重要です。
これらの取り組みを通じて、新リース会計基準への対応を単なる一時的なプロジェクトとして終わらせるのではなく、企業の継続的な業務プロセスとして定着させることが、長期的なコンプライアンス維持に繋がります。
まとめ
新リース会計基準は、国際財務報告基準(IFRS16)に準拠し、原則としてすべてのリース契約をオンバランス化する重要な会計基準です。これにより、従来のオフバランス処理が見直され、企業の財務実態をより正確に開示することが求められます。
本基準の適用により、賃借企業は使用権資産とリース負債を貸借対照表に計上する必要があり、その結果、自己資本比率やROAといった財務指標に大きな影響が生じる可能性があります。また、損益計算書やキャッシュフロー計算書にも影響が及ぶため、企業は財務戦略や投資判断の見直しを迫られることになります。
実務面では、既存のリース契約データの網羅的な収集と分析、新たな会計処理方針の策定、会計システムの改修、そして従業員への徹底した教育が不可欠です。これらの対応は、単なる会計処理の変更に留まらず、企業の業務フローや管理体制全体に影響を及ぼします。
新リース会計基準への円滑な移行と、それに伴う企業価値の維持・向上を実現するためには、早期に現状を把握し、計画的かつ包括的な対応策を講じることが極めて重要となります。
※記事内容は実際の内容と異なる場合があります。必ず事前にご確認をお願いします
